カブトガニの形態

1.形態

 カブトガニは、一度見たらほとんどの人がその形と名前は覚えてしまうほど印象的な動物です。カニという名前がついていますが、触覚がないことや肺の構造などからカニ類よりも実際はクモやサソリに近縁の動物です。
 カブトガニの成体は、体長が雄で約50cm、雌は一回り大きく約60cmです。全体が堅い甲羅でおおわれ、フライパンを伏せたような体形をしていて、伊万里では昔からハチガメと呼ばれています。下図に示すように、体は3つの部分からなります。目や脚のある半円形の全体部、えらや肛門のある六角形の後体部、その後方に突出した三角錐の形をした尾剣からなります。
 雌雄の形態的な違いは、次の3点にまとめられます。

@雄の前体部の縁が湾曲していること。
A後体部の棘(縁棘)が、雄は6対であるのに対して、雌は3対になっていること。
B雄は第1,2歩脚の先端部が鉤状の爪をもっているが、雌ははさみ状の爪を持っていること。

 これらの特徴は、雄が雌の後ろにくっつくつがい(番)の状態になるための差であり、湾曲した雄の前体部の前方は、雌の後体部にぴったりと重なるためであり、雌の縁棘のない部分を雄は2対の鉤状爪でしっかりと捕まえます。
 なお、成体になる前の幼生時には、雌雄の形態的な差は見られず、縁棘が6対である他はすべて成体の雌と同じ外形です。雌雄の形態的な差は最後の脱皮によっておこります。
左は雌、右は雄
つがいの状態、前が雌で後ろが雄

2.つがい行動

脚に囲まれた中央の部分が口(雌)
複眼の目
しっかりと雌を捕まえています
 カブトガニにとって、つがいになるということは、生態的に重要な意味をもっています。
 カブトガニの雄は、飼育している水槽の中に大きな鍋ぶたをおとすと、それに近づき、第1,2の歩脚の鉤状つめで捕まえようとします。すなわち、つがい行動がみられます。
 水槽で行った実験結果をまとめると、雄のつがい行動は、雌の前体部の幅の長さが信号刺激となっておこる本能行動であり、その幅は雌の平均的な長さ30〜35cmで、それ以外の範囲ではつがい行動はおこりません。
 カブトガニの成体は、故意に離さない限り、つがいの状態を維持します。そのことから、大変仲の良い夫婦に喩えられます。どうして、つがいになっておく必要があるのでしょうか。
 カブトガニは、人が歩くくらいの速度でしか遊泳できません。また、干潟ではその歩行はもっと遅くなります。すなわち、雄が広い海の中で雌を見つけつがいになることは容易ではないのです。そこで、一度見つけた雌を、雄はしっかりと捕まえてつがいになるという手段を身につける必要があったのではないでしょうか。そして、この手段は、個体数が少なくなっても確実に子孫を残すための方法であり、生きている化石といわれるように種が連続してきたひとつの要因とも思われます。